北アルプス山岳地積雪の化学的研究

 北アルプスの山岳地帯は世界有数の豪雪地帯で、一冬で数メートルの積雪があります。こうした積雪は、高山の環境と深く関わっているわけですが、どういう化学成分が入っているのかとか、それらがどこから運ばれて来たのかとか、そういうことはあんまり調べられていません。
 そこで、西穂高岳を中心にして、日本海の海岸付近から内陸の信州にかけて、北アルプスの山々で雪を採ってきては化学成分や同位体組成の分析を行っています。

北アルプスを越える酸性雪
 冬季の北アルプスでは、西から東に山脈を横断する風が強まり、雪雲もその風に乗って山脈を越えていきます。雪に含まれる化学物質が風下へどのように運ばれているのかを調べるため、風上側の地点(立山らいちょうバレー)と、風下側の地点(白馬八方尾根)の積雪の化学成分を比較してみました。
中部山岳地域における積雪の化学組成・同位体比の広域分布 - 冬季における内陸部への化学物質の長距離輸送状況 - (Spatial distribution of chemical and isotopic compositions in snow cover over central Japan mountainous region: winter long-range transportation of chemical substances to the inland area) [PDF形式, 2.2MB]
 2007年2月8日に開かれた、博士論文の公開口頭試問に使ったスライドです。博士論文の内容を説明するためのもので、前置きに続いて、大きく分けると以下の三つの部分からなっています。
  1.  水の安定同位体比を用いた山岳積雪の堆積時期推定: 雪の酸素・水素同位体比を用いて、その雪が「何時積もったのか」を推定する方法を開発した。
  2.  西穂高岳積雪中の3冬季の酸性汚染物質とその起源: 西穂高岳で三冬季の積雪を採取して、化学成分や硫黄同位体比を測り、雪に含まれている汚染物質がどこから飛んできたのかを調べた。
  3.  冬季の中部山岳地域における化学物質の内陸への輸送状況: 日本海の海岸近くから信州の八ヶ岳まで、内陸に向かって150kmにわたって雪の化学成分を測り、冬の間に日本の上空を輸送される化学物質がどの程度内陸まで飛んでいくのか、また内陸に行くに従ってその濃度がどう減って(増えて)行くかを調べた。
北アルプスに降る酸性雪はどこから来たのか?
 e-Learnning 教材用の原稿のために作成した文書です。西穂高岳で採取した積雪の化学・硫黄同位体組成を調べ、酸性汚染物質の硫酸イオンが中国などアジア大陸から輸送されているということを推定したものです。